一般社団法人薬学教育評価機構

地域で信頼される、薬剤師・薬局を目指して

2022.3.11(取材日:2021.8.10)

大木 一正
Interview

株式会社クリーン薬局
代表取締役・管理薬剤師

大木 一正

Kazumasa Ooki

6年制薬学部では臨床能力を身につけることを目的に5年次に薬局において2.5カ月間の実務実習を行っています。ここでは実務実習に学生を受け入れてきた指導薬剤師の立場から株式会社クリーン薬局代表取締役の大木一正氏に6年制薬学教育や薬局実習について伺いました。

近年、薬局を取り巻く環境が大きく変化していますが、先生の薬局について教えてください。

 日本は、超高齢社会が急速に進展する一方で、医療保険や介護保険といった社会保障制度の財源がひっ迫しています。その中で地域医療の一翼を担う薬局薬剤師の果たすべき役割は、近年変化してきました。昔は薬局と言えば、処方箋に基づいて医薬品を調剤する保険調剤や、地域住民の相談を聞いたうえで商品を推奨する一般用医薬品(市販薬)・健康食品等の販売が主でしたが、ここ数年は患者宅に訪問して医療サービスを提供する在宅医療への参画が増えています。私どもの薬局でも患者が安心して療養生活を送れるように早くから在宅医療に着手しています。
 また最近では、政府がセルフメディケーションを推進しています。これは「自分の健康は自分で守る」という考えで、日頃から予防に取り組む、軽い病気であれば、薬剤師に相談して、自分で対処するというものです。「かかりつけ薬局」や「健康サポート薬局」という言葉も最近耳にする人も多いでしょう。当社が運営している薬局は健康サポート薬局を取得しています。そのほかにも学校薬剤師や災害時医療にも取り組んでいます。

先生の薬局では実習生を受け入れていますが、学生の印象を教えてください。

 薬学教育が6年制になり臨床を意識した教育が中心となったことで、実務実習に来る学生の意識が変わったように感じます。単に薬の説明をしたら終わりというのではなく、患者の生活背景や医師の処方意図なども踏まえて、それぞれの患者に合わせた指導をすることを心がけています。
 大学で講義をすることがあるのですが、卒業したら、薬局で在宅医療をしてみたいという声もよく聞くようになりました。ただ、患者宅に初めて訪問した際は、自分の想像を超える現状を目の当たりにして驚くこともあるようですが、私たち指導薬剤師がしっかりとフォローしてあげると、その後は患者との会話もスムーズになります。どんなに知識や技能を身につけていても、やはり現場を経験しておくことは重要なのです。実務実習を経験することは学生にとって大きな自信になるはずです。

薬局実習は保険調剤や在宅医療のほかに地域活動という項目がありますが、先生の薬局ではどんなことに取り組んでいますか。

 学校薬剤師や薬物乱用防止活動、災害時医療などに取り組んでいます。私どもの薬局がある品川地区では、東京都薬物乱用防止推進協議会が展開する薬物乱用防止を目的とした「ダメ。ゼッタイ。」普及啓発活動があり、実習生にも参加してもらっています。駅前で平日2時間ほど、リーフレットなどを配布してもらい、地域に貢献する薬剤師というものを実感してもらいます。行政の職員や警察官など、地域のいろいろな職種と関わることができたことも大きな財産となったでしょう。
 また、薬局内で実施している地域住民を対象にしたイベントにも参加してもらっています。普段は栄養士が栄養相談するのですが、学生がいることが地域住民の方にとって新鮮だったこともあり、参加された方は喜んでおられました。
 薬学が4年制の時代は実習があっても短期間だったため、一部の業務しか指導することができませんでしたが、6年制により実習期間が長くなったことで、幅広く指導することが可能になりました。

薬学教育評価機構(以下評価機構)に期待することはありますか。

 実務実習前には、技能や臨床能力の習得度を客観的に評価する薬学共用試験(CBT・OSCE)が実施されていることもあり、実習生はある程度のことが実践できています。各大学の先生方がしっかりと教育されていることはもちろんのこと、各大学の教育評価をしている評価機構が十分機能しているからなのだと思います。
 医療者は、患者に最良の医療サービスを提供する義務がある職種です。国民の期待を損なわないように、引き続き学生が質の高い、人としての倫理観を持った教育を受けられるようにしてほしいですね。

プロフィール

大木 一正

株式会社クリーン薬局
代表取締役・管理薬剤師

大木 一正(おおき かずまさ)

1977年東京薬科大学卒業後、協和発酵工業(当時)に入社し、MRとして9年従事。86年同社を退職し、同年有限会社クリーン薬局(2017年に株式会社クリーン薬局に変更登記)を開設し、現在に至る。一般社団法人品川区薬剤師会理事、東京薬科大学客員教授。