基礎から臨床まで幅広い知識を身につけることができるのが6年制薬学部
2024.11.22(取材日:2024.9.10)
東北大学 大学院薬学研究科 薬理学分野
鹿山 将
Tasuku Kayama
6年制薬学部では臨床能力を身につけることを目的に5年次に病院と薬局においてそれぞれ2.5カ月間の実務実習を行っています。ここでは6年制薬学部の卒業生である東北大学 大学院薬学研究科薬理学分野に在籍し、日本学術振興会の特別研究員として活躍している鹿山将氏に6年制薬学部の魅力について伺いました。
薬学部に進学した理由を教えてください。
高校生の頃から、生物や化学に興味を持っており、こうした学問を深く学べる薬学部への進学を決意しました。また、小さい頃から病院通いをしており、薬が身近だったため、将来、臨床薬剤師や薬学研究者になりたいという気持ちもありました。
現在、日本学術振興会の特別研究員として研究されていますが、研究の道に進んだきっかけを教えてください。
学部生の頃、指導していただいた先生方が楽しく研究に取り組んでいる姿に憧れ、大学院進学を決めました。博士課程では、仮説が外れて落ち込むこともありましたが、学術論文を完成させたときには、大きな達成感を感じました。また、その喜びを研究室のメンバーと分かち合えることにも、魅力を感じました。何より、世界でまだ誰も知らないことを自分の手で初めて解明する過程は、とても楽しいです。こうした理由から、現在も研究を続けています。
6年制薬学部の卒業生は、病院や薬局といったように臨床を選ぶ人が多い中、鹿山さんは貴重な存在ですね。あらためて6年制薬学部の魅力はなんだと思いますか。
薬学部には4年制と6年制があります。4年制は、研究に長い期間集中できることが魅力です。基礎研究を行う上で、これは大きな利点だと思います。一方、6年制は、講義が多く、病院や薬局での実務実習もあるため、研究に割ける時間は4年制と比較して限られています。しかし、6年制では、薬の研究開発に必要な知識を習得するための基礎薬学に加え、臨床現場で働く上で必要な臨床薬学を学ぶことができます。臨床薬学の中でも、特に実務実習は、患者さんの生の声を聞ける貴重な機会です。私自身、この実務実習を通して、研究開発された薬が患者にどう届くのか、イメージをもつことができました。
医療応用を意識した研究 (いわゆるトランスレーショナル・リサーチ) は、近年ニーズが高まっています。こうした研究には、基礎薬学と臨床薬学、両方の知識が必要です。そういう意味では、基礎薬学から臨床薬学まで広く学べる6年制薬学部の教育は、現在の薬学研究に合った教育といえるのではないでしょうか。
実務実習での経験が研究にも生かされているのですね。鹿山さんのように6年制から大学院へ進学してくれる人が多くなってほしいのですが、学費がネックになってあきらめる人も少なくありません。その点について鹿山さんはどう思われていますか。
様々な状況の方がいらっしゃいますから、一概に論ずることは難しいですが、博士課程中の経済的な問題(学費や生活費の問題)は、奨学金制度で解決できるかもしれません。私自身も、日本薬学会の長井記念薬学研究奨励支援事業や、日本学術振興会の特別研究員制度(学振)といった奨学金制度のご支援により、博士課程を無事卒業することができました。その他にも様々な奨学金制度があり、中には給付型の奨学金や、博士課程中に充分な研究成果を出すことで返済免除となる奨学金もあります。
近年、日本において若手研究者を育成する機運は高まっています。そして、多くの先生方のご尽力により、学生への経済的な支援は確実に増えてきています。もし、経済的な理由で博士課程進学を躊躇しているのであれば、すぐにあきらめずに、まずは大学の先生に相談してほしいと思います。
今後の目標を教えてください。
近年、末梢臓器の炎症が、うつ病などの精神疾患を引き起こす原因のひとつである、という説が報告され始めています。こうした背景から、私は、末梢臓器の炎症が脳活動に与える影響について研究しています。この研究を進めることで、精神疾患の治療薬開発の一助となるような研究成果を出したいと考えています。また、学生に教えることも好きなので、大学の先生になることも目標のひとつです。
将来のキャリアの選択肢の一つとして大学教員をお考えのようですが、6年制薬学教育に期待することはありますか。
現在の6年制薬学教育は、臨床薬剤師育成に重点を置いており、6年制薬学部の卒業生は、病院や薬局、ドラッグストアで臨床薬剤師として働く方が多い印象です。こうした臨床薬剤師は、患者さんと直接接することができ、やりがいを感じられる素敵な仕事だと思います。一方で、6年制薬学部で修得した能力を生かせる職業は、製薬会社や大学・研究所の研究職、開発職、保健所・衛生研究所の技術職員など、臨床薬剤師以外にもたくさんあると思います。今後の6年制薬学教育により、学生が、より広い視野を持ち、卒業後、様々な職業で活躍することを期待しております。
プロフィール
東北大学 大学院薬学研究科 薬理学分野
日本学術振興会 特別研究員(PD)
鹿山 将(かやま たすく)
2017年3月、明治薬科大学薬学部薬学科卒業後、東京大学大学院薬学系研究科(博士課程)に進学し、脳活動が末梢免疫系に与える影響について研究を行う。2021年7月から師事していた佐々木拓哉氏の栄転に伴い、東北大学大学院薬学研究科薬理学分野の学術研究員に就任。2023年4月から日本学術振興会特別研究員 (PD) として、末梢臓器の炎症が脳内の神経活動に与える影響について研究している。博士(薬学)、薬剤師。