一般社団法人薬学教育評価機構

第三者に評価

2022.12.5(取材日:2022.10.26)

賀川 義之
Interview

静岡県立大学薬学部 薬学部長・教授

賀川 義之

Yoshiyuki Kagawa

薬学教育評価機構(以下評価機構)では、6年制薬学教育の質を保証するため、国公立私立全大学の教育プログラムを他大学教員、薬剤師、医師、看護師、医療ジャーナリストなどを含む第三者が評価し、改善すべき点や優れた点など、大学の教育評価を行っています。ここでは、評価を受けた大学の一つである静岡県立大学薬学部薬学部長の賀川義之氏に6年制薬学教育や評価機構の教育評価などについて伺いました。

静岡県立大学薬学部の特徴を教えてください。

 当大学は医学部がないため、県内にある静岡県立総合病院(以下県立総合病院)と20年前から協定を結んでおり、県立総合病院内に薬学部の研究室を設けています。その研究室を拠点として6年制薬学教育になる以前から大学院修士課程の学生を対象に臨床研究コースを設けていました。研究室には現在、薬学部の専任教員が6名常駐しています。病院実習では、アメリカの「Pharm.D.」教育を参考に、専任教員と病院薬剤師が連携して学生に対して高度な臨床教育を提供し、約3分の1の学生が県立総合病院で病院実習を受けています。県立総合病院の病院実習では専任教員がスケジュールを組み立てているのですが、これをもとにほかの病院実習でもモディファイしてスケジュールを作成ができるため、ほかの病院でも同等の病院実習を実現しているのです。
 さらに県立総合病院の中には380平米の研究スペースを用意し、病院の医師や薬剤師との共同研究を行うとともに、6年制の学生の卒業研究にも取り組んでいます。

これだけ教育環境が整っていると、学生の意識は変化していきませんか?

 現場の薬剤師に学生のことを聞くと、実務実習が進むにつれ、学生が成長しているという話をよく聞きます。医師に疑義照会や処方提案する際は、エビデンスを提示して説明したり、薬物治療に問題点がある場合は自ら課題を見つけて処方設計をしたりしているようです。

卒業後の学生の活躍が楽しみですね。

 当大学では卒業研究にも力を入れているせいか、各病院の薬剤部長から、臨床現場の問題や課題に積極的に取り組む卒業生が多いという評価をいただきます。

充実した教育を提供されていますが、評価機構に評価されたご感想をお聞かせください。

 審査を受けるに当たって約2年前から準備していましたが、評価項目の自己点検をしていく中で、「この部分が抜け落ちている」という気づきが生まれ、教育内容を改善することで、よりいい学生に入学してもらい、よりいい学生を社会に輩出しようというポジティブなマインドを持つ機会になりました。
 個人的な意見ですが、受け身で外部評価を受けてしまうと場当たり的に取り組んでしまい、思ったような成果が上がりませんね。

外部評価を受けたことによって大学教員の意識も変わったのでしょうか。

 3ポリシー※や教育内容について自己点検を行ったのですが、教授だけでなく、准教授以下の教員にも内部質保証(自己点検・評価する)の委員に加わってもらい、ボトムアップ式で改善に取り組むことで内部質保証に対する教員の意識改革にもなったと思います。

外部評価がきっかけで、大学全体で教育改善に取り組んでいるようにお見受けしましたが、あらためて評価機構に対する要望はございますか。

 要望というよりむしろ評価者の方が当大学の改善点をしっかりと指摘していた印象はあります。
 薬学は基礎から臨床まで幅広い教育を提供しています。評価機構が大学の差別化を促進するような評価をしてしまうと、オール薬学体制が崩れてしまうかもしれません。ミニマムエッセンシャルズ(必要最低限の水準)になるかもわかりませんが、これまで通り全国一律で評価するほうがいいと考えます。

薬学部を目指す高校生にメッセージをお願いします。

 薬学の魅力は、薬に対していろいろな方向からアプローチできることです。病院や薬局といった臨床のほかにも、製薬企業で創薬をする人、薬系の公務員になって薬事行政に携わる人もいます。
 その中で大半の人が臨床業務に就くわけですが、保護者の方は、臨床現場の薬剤師は医薬品(物)を対象に仕事をしているイメージを持たれているかもしれません。しかしながら近年、薬剤師を取り巻く環境は急速に変化し、現在の薬剤師は、服薬指導や処方支援を介して患者さんの薬物治療に直接的に関与するだけでなく、地域住民の健康増進にも力を入れており、対人業務が主になっています。6年制薬学教育もそういった薬剤師を社会に輩出するために、日々進化しているのです。
 薬に興味があれば、薬を創ることでもいいし、ハンドリングすることでもいいし、患者ケアに努めることでもいいでしょう。このように薬学にはいろいろな可能性があるのです。

※3ポリシー
「卒業認定・学位授与の方針」(ディプロマ・ポリシー)、「教育課程編成・実施の方針」(カリキュラム・ポリシー)及び「入学者受入れの方針」(アドミッション・ポリシー)のこと。大学は3つのポリシーを一貫性あるもとして策定し公表しなければならない。

プロフィール

賀川 義之

静岡県立大学薬学部 薬学部長・教授

賀川 義之(かがわ よしゆき)