一般社団法人薬学教育評価機構

第三者の評価を学内にフィードバックし、質の高い教育を提供する

2024.11.22(取材日:2024.8.7)

Interview

学校法人 昭和薬科大学理事長
同大 臨床薬学教育研究センター
実践薬学部門 教授

渡部 一宏

Kazuhiro Watanabe

薬学教育評価機構(以下、評価機構)では、6年制薬学教育の質を保証するため、国公立私立全大学の教育プログラムを他大学教員、薬剤師、医師、看護師、医療ジャーナリストなどを含む第三者が評価し、改善すべき点や優れた点など、大学の教育評価を行っています。ここでは、評価を受けた大学の一つである昭和薬科大学理事長の渡部一宏氏に6年制薬学教育や評価機構の教育評価、同大学の取り組みなどについて伺いました。

近年、少子高齢化や人口減少といった社会を取り巻く環境は劇的に変化しています。その一方で、医療においては、高度化・複雑化していく中、質が高く安心・安全な医療を提供する医療人が求められています。その中で、昭和薬科大学ではどのような教育を行っていますか。

 本学は昭和5年(1930)に開学した薬学教育の伝統校として、「薬を通して人類に貢献」を大学の理念に掲げ、薬と医療に関わるさまざまな分野に多数の卒業生を送り出してきました。2006年にスタートした6年制薬学教育においても、質の高い薬剤師を輩出するために、教養科目から専門科目、病院・薬局実習、卒業研究まで6年一貫の教育プログラムを提供することにこだわってきました。さらに一歩踏み込んで、研究成果を臨床に還元できる能力をもった薬剤師、すなわち臨床マインドと研究マインドをバランスよく備えた「ファーマシスト・サイエンティスト」を視野に入れた教育にも力を入れています。
 時代が求める次世代の薬剤師を育成の為に、私が所属する臨床薬学教育研究センターとして注力してきたのが、他の職種の役割や専門性等を理解する目的で、医学生や看護学生といった医療系の他大学の学生と合同で学ぶ「多職種連携教育」です。これについても本学では早い時期から教育プログラムに盛り込んでいます。薬剤師は、単に薬を調剤するだけでなく、医療チームの一員として活躍し、薬物治療の専門家として貢献することが期待されています。

実際に審査を受けたご感想をお聞かせください。

 各大学には、臨床現場の最新の医療を学生に対して教育するために、臨床現場での薬剤師として経験豊富な教員、いわゆる臨床系実務家教員が在籍していますが、時間の経過とともにその教員の実践的な知識とスキルは古いものになってしまいます。その課題を克服するために、大学は臨床系実務家教員に対して常に新しい医療に対応するための研鑽できる体制をサポートしており、その点については評価機構の評価対象の一つとなっています。医療が日々進歩していることを考えると、臨床系実務家教員に対する継続的な臨床での研修制度は、ファーマシスト・サイエンティストを養成するうえで不可欠です。臨床系実務家教員は薬剤師としての能力に加え、サイエンティストとして臨床現場で起こった課題を研究できる能力も備えていなければ、国民社会に求められる次世代の薬剤師を養成することはできないでしょう。
 今回、第三者から評価を受けたことは本学にとって大いに刺激になり、学生により良い教育を提供していこうという教育の質向上への意識がさらに高まりました。
 私自身、病院に勤務していたとき、公益財団法人日本医療機能評価機構の病院機能評価を定期的に受審していたので、第三者による客観的評価はとても有用だと思っています。評価結果によって病院の位置付けや問題点、課題が明らかになります。このことにより、病院の更なる改善活動を推進し医療の質の向上につながります。同様に、薬学教育評価機構の評価結果によって大学教育の問題点や課題が明らかになり、指摘された問題点や課題点の改善が薬学教育の質向上、最終的には学生のためになると考えています。

評価機構の結果を今後の教育プログラムに反映していただけるとうれしいですね。
6年制薬学教育では、チーム医療や地域医療で活躍できるようになるために、病院や薬局での実務実習が義務付けられています。実務実習がスタートしてからすでに15年ほどたっていますが、現在ではどのようなことが実施されていますか。

 私が大学教員として着任したのが2009年で、ちょうど 6年制薬学教育の一期生が4年生となり実務実習事前学習が始まった年でした。2010年から始まった薬学実務実習は、正直言って手探りの状態であり、実習生には十分な教育が提供できていなかった印象を持っていました。今では、病院では薬剤師の病棟活動や注射剤ミキシングや抗がん剤調製、薬局では服薬フォローアップ業務や在宅での薬剤師業務など、専門性の高い薬剤師業務を実務実習の学生でも当たり前のように学ぶことができ、この15年で様変わりしました。
 6年制薬学教育を受けた薬剤師もすでに10万人を超え、薬剤師全体の3分の1を占めています。これらの薬剤師がこれから実務実習の指導薬剤師として活躍してくれれば、更に実りの大きい薬学実務実習になるのではないかと期待しています。

2024年6月に学校法人昭和薬科大学は沖縄県と「薬剤師等の育成・確保における連携協定」を結ばれましたが、その意図をお教えください。

 沖縄県は、人口10万人あたり最も薬剤師が少ない自治体です。また、太平洋戦争で多大な犠牲を受けた沖縄県の人材育成に貢献するという建学の精神に基づき、昭和49年に開校した昭和薬科大学附属高等学校・中学校が浦添市にあります。今年、附属高校が創立50周年を迎え、今の沖縄の「慢性的な薬剤師不足の状況」との課題解決に対して沖縄県にお手伝いできることがないかとの思いで、今回の「薬剤師等の育成・確保における連携協定」に至りました。
 沖縄県への薬剤師就職Uターン・Iターンの支援、県内高校生に対する薬科大学への進学推進と就学支援、また附属校の施設を利用した薬剤師の職能啓蒙活動等のイベントの開催を沖縄県と共催で実施します。この夏に早速、小学校高学年を対象にした「こども薬剤師調剤体験会」を実施し、今後は高校生を対象にした「薬学への招待」セミナーや「薬物乱用防止」セミナーを企画しています。
 沖縄県の子供達といろいろ話をしてみると、まだまだ薬剤師のことは理解されていません。薬剤師の仕事と言えば、病院や薬局をイメージされる方が多いかと思いますが、働くステージは国や自治体、保健所、製薬企業など多岐にわたります。若い世代に薬剤師の職能を啓発し、薬剤師への理解を深め、生まれ育った地元沖縄の薬剤師不足解消、さらには地域医療に貢献できる人材の育成にも本法人として取り組んでいきたいと思います。

プロフィール

学校法人 昭和薬科大学理事長

渡部 一宏(わたなべ かずひろ)

1995年、昭和薬科大学薬学部卒業。97年、同大大学院薬学研究科修士課程修了後、財団法人聖路加国際病院薬剤部入職する。2008年、共立薬科大学大学院薬学研究科博士課程(社会人課程)修了(博士(薬学))。09年に昭和薬科大学講師に着任し、17年同大臨床薬学教育研究センター実践薬学部門教授を経て、23年から現職(教授併任)。