一般社団法人薬学教育評価機構

第三者による評価は、教育改善の方法を見つめ直すきっかけになった

2022.3.11(取材日:2021.8.25)

岡田 信彦
Interview

北里大学薬学部
薬学部長・教授

岡田 信彦

Nobuhiko Okada

薬学教育評価機構(以下評価機構)では、6年制薬学教育の質を保証するため、国公立私立全大学の教育プログラムを他大学教員、薬剤師、医師、看護師、医療ジャーナリストなどを含む第三者が評価し、改善すべき点や優れた点など、大学の教育評価を行っています。ここでは、評価を受けた大学の一つである北里大学薬学部薬学部長の岡田信彦氏に6年制薬学教育や評価機構の教育評価などについて伺いました。

少子高齢化社会や新型コロナウイルス感染症など、社会を取り巻く環境が目まぐるしく変化しており、その中で薬剤師の役割も大きく変わろうとしていますが、岡田先生の大学ではどのような教育を行っていますか。

 わが国は超少子高齢化社会に突入し、医療分野においては在宅医療の充実が社会的な課題になっています。また、医療の枠組みも地域包括ケアシステムや多職種連携がキーワードとなり、その中で薬剤師の役割が大きくなっています。さらに科学の進歩によるロボットやAIなどが医療分野にも導入されるようになり、薬剤師の専門性が問われている時期でもあります。
 医薬品に関しては、低分子化合物から抗体医薬品、そして再生医療といったようにトレンドが大きくシフトしています。また、創薬についてもグローバル化が進みつつあり、国際的な薬の使い方や評価法について薬剤師が理解しておく必要があります。最近よく見られる「次世代の薬剤師」とは、このような能力を備えた薬剤師だといえるでしょう。
 このことを踏まえ当大学では、附属病院の現役薬剤師が教員として加わり、1年次から充実した臨床教育を行うことに加え、早期から研究に取り組める「プレ特別実習コース」など、研究する姿勢も重視した教育を行っています。

臨床と研究を両輪とした薬学教育はこれからますます求められますね。評価機構もそのことを意識して各大学の教育評価を行っているのですが、実際に審査を受けたご感想をお聞かせください。

 率直に言うと、評価を受けて良かったと思う点が多かったですね。1つ目は、第三者から評価されることで、PDCAサイクルに基づいたシステム改善などをするきっかけになりました。普段からPDCAサイクルを意識しているものの、いざ問題点や課題が浮き彫りになると、場当たり的に解決していることもありました。第三者に評価されることによって自己点検・評価についてあらためて考えるきっかけとなりました。
 2つ目は、私たちが気に留めていなかったことについて指摘してくれたことです。例えばシラバスを作成する際にも、学生が理解できる内容にしておかないと、後から友達に講義の内容を聞いて「あの講義を受けておけばよかった」ということがないように、学生目線で考えることの大切さに気付かされました。
 3つ目は、自分たちの長所や特徴を客観的に知ることができたことです。他大学の評価報告書を閲覧することができるので、それを参考にして今後の教育づくりに生かしていきたいと思います。

評価機構は6年制薬学教育の質向上を目指していますが、評価を受けたことを踏まえて要望することはありますか。

 大学の教育評価ついては、評価機構のほかに大学基準協会も実施しているので、差別化を図るために、薬学部に特化した項目があるといいと思います。6年制薬学教育は事前実習や病院・薬局で比較的長期間学ぶ実務実習などがあることが特徴です。評価項目を精査し、薬学全体の課題を浮き彫りにすることで、薬学教育のレベルアップが図れるのではないかと考えます。
 もう1つは評価基準を満たしていると判断された場合にもらえる「適合マーク」についてです。せっかく適合していても、その意義が社会に周知されていないのが現状です。評価機構と大学基準協会による教育評価の違いも含め、高校生や保護者、高等学校の進路指導担当教員が理解していただけるように、広報活動をしてほしいですね。

薬学部を目指す高校生にメッセージをお願いします。

 薬学教育は1年生の基礎科目から始まり、薬学専門科目、次いで薬学臨床科目というように積み上げ型の教育です。そして4年生までに身につけた知識や技能、態度を5年生の実務実習の中で発揮し、自身の能力を評価します。さらに6年生では卒業研究があり、自分の興味・関心のある研究から専門性を見つけるといったように、ここでは将来を見据えた教育を行っています。また、各大学には特色あるプログラムが用意されており、当大学では、現代医療で使用されている漢方や生薬について学ぶ「漢方医薬学履修プログラム」や、国際交流協定校との間で行う短期海外留学があります。
 大学でしっかり学べば自信や自覚をもって社会に出られると思うので、社会に貢献できる薬剤師を目指して頑張ってもらいたいですね。

プロフィール

岡田 信彦

北里大学薬学部
薬学部長・教授

岡田 信彦(おかだ のぶひこ)

1987年東京大学大学院農学研究科博士課程修了後、東京大学医科学研究所助手(細菌研究部)に着任。1991年1月から1993年9月までワシントン大学(セントルイス)医学部に留学、1997年より北里大学薬学部助教授、准教授を経て、2010年4月より現職。2018年7月より薬学部長、北里大学理事。専門は、病原細菌学、腸内細菌学など。