一般社団法人薬学教育評価機構

多職種連携は相手の職能を理解することが不可欠

2022.12.5(取材日:2022.9.28)

松本 恵実
Interview

東北大学病院薬剤部

松本 恵実

Megumi Matsumoto

薬剤師には病院、薬局といった臨床のほか、製薬企業や行政といったようにさまざまなステージがある。ここでは6年制薬学部の卒業生である東北大学病院薬剤部の松本恵実氏に病院薬剤師の仕事や薬学部で学んだことについて伺いました。

薬学部に進学した理由を教えてください。

 アレルギーを起しやすい体質だったため、通院・入院を繰り返す幼少期を過ごしていましたが、患者さんのために献身的に仕事をされている医療者の姿は、その当時、鮮明に記憶の中に残っていました。私もいつか医療に関わる仕事に就きたいと思ったのはその頃からです。医療者と言えば、医師や看護師が真っ先に頭に思い浮かべるかもしれませんが、親族に薬剤師がいたことと、それから市販薬の添付文書を読むことも好きだったこともあり、薬剤師を目指しました。

現在はどんな仕事をされていますか。

 ICU(集中治療室)に常駐し、患者さんへの薬物治療が適切に実施されているかを確認し、問題があれば薬剤師の立場から医師や看護師に情報提供しています。よくある例として薬物間相互作用があげられます。例えば、睡眠薬は併用薬によって作用が強められるものがあります。過量となり日中まで効果が持続し、眠気や注意力の低下を生じてしまうと、リハビリの妨げとなります。リハビリの遅れはICU退室の遅れにつながります。なるべく早く一般病棟で管理できる状態までに患者さんを回復させることがICUのミッションです。したがって薬剤師は相互作用が予想される場合は、睡眠薬を低用量から始めたり、場合によって中止したりするように医師に提案します。

他職種と関わるうえで、どんな力が必要だと感じますか。

 ICUでは午前中に回診があり薬剤師も同行します。回診には医師、看護師のほか、臨床工学技士(人工呼吸器などの医療機器の操作及び保守点検を行うスタッフ)や管理栄養士がおり、多職種で情報を共有し患者さんの治療について意見を交わします。このような場で、ディスカッション能力の重要性を痛感します。より良い治療に貢献するためには、他職種の見解をなるべく適切に把握し、教科書的ではなく臨床に即した意見を簡潔に伝えなければなりません。大学時代にはありませんでしたが、カンファレンスを模した授業や、医学部や看護学部の学生との討論を経験しておけば、他職種の立場をより把握し、実を伴った意見を述べる力を培うことができたのではないかと思います。薬剤師を目指す方は、積極的に医学部や看護学部、その他医療系学部の学生と広く交流を持ち、学生のうちから他職種の職能を理解しておくことは大事だと思います。

どんなことを学生時代に学んでおけば良かったと思いますか。

 ICUにいる患者さんは人工呼吸器や人工心肺装置といった医療機器を身に着けることが多いため、感染症のリスクが高い傾向にあります。そのため、感染症や抗菌薬の知識を要する場面に多々直面します。大学時代はその知識をどう活用すればいいのかイメージできず、軽視していた面があり、もう少し勉強していればよかったなあと思うことがあります。大学の授業はどんな科目でも臨床につながっているのだと実感しているところです。

薬剤師としてやりがいを感じることはどんな場面ですか。

 他職種に頼ってもらえたり、患者さんの治療に役立ったと思えた時ですね。小児科病棟に配属されていた頃に多かったのは、薬のうまく飲めない小児患者さんがどうやったら飲めるようになるか考えて、飲めるようになった時。顆粒薬から錠剤を粉砕したものに変更し全体のかさを減らしてみることを医師に提案したり、うまく味がマスクできるジュースや食品を保護者の方に試してもらったりしていました。治療が順調に進んで、患者さんが元気になって行く姿が一番のエネルギー源だと思います。

最後に夢を教えていただけますか。

 現在の集中治療領域では全身管理を学ぶことができ、また基礎となる疾患も多様なので、幅広い知識を持ったジェネラルな薬剤師を目指して成長を続けたいと思っています。一方で、元々小児科領域に興味があったので、小児薬物療法認定薬剤師の取得するための勉強もしています。小児科領域は臨床データが少なく、まだまだ薬物治療に関しては未発展の部分が多いのが現状です。ゆくゆくは研究にも取り組み、臨床に貢献できるようなエビデンスの構築に関われたら、と考えています。

プロフィール

松本 恵実

東北大学病院薬剤部

松本 恵実(まつもと めぐみ)

2019年静岡県立大学薬学部を卒業後、国立大学法人 東北大学病院 薬剤部へ入職。昨年度より主に集中治療部にて病棟業務に従事。