未来の薬剤師が活躍できるように薬学生をサポートしていきたい
2022.12.5(取材日:2022.10.17)
日本薬剤師会副会長
渡邊 大記
Daiki Watanabe
薬学教育評価機構(以下評価機構)では、6年制薬学教育の質を保証するため、国公立私立全大学の教育プログラムを他大学教員、薬剤師、医師、看護師、医療ジャーナリストなどを含む第三者が評価し、改善すべき点や優れた点など、大学の教育評価を行っています。ここでは、評価委員の立場から日本薬剤師会副会長の渡邊大記氏に6年制薬学教育などについて伺いました。
日本薬剤師会副会長として、地域の薬局をけん引されていますが、先生自身どんな薬局づくりを目指していますか。
もともと病院に勤務していましたが、生まれ育った町の地域住民の健康をサポートしたいという思いがつのり、父親が経営する薬局に戻ってきました。30歳くらいの頃から地域薬剤師会の会長を務め、地域の医師や歯科医師とも情報を交わすうちにその思いはますます強くなりました。この地域では毎年秋に、医療・介護・福祉・行政が合同で地域住民向けの地域住民向けのイベント「健康まつり」を実施しています。このイベントでは、健康相談や簡単な健康チェックを行うだけでなく、薬局の機能や薬剤師の職能などを周知して、地域における薬局の位置付けを明確化してきました。また運営や企画に携わることで、地域の医師会や歯科医師会をはじめとする多くの医療・介護関係者との連携が広がり、在宅医療に関する研修会や認知症のネットワーク等の地域でまとまった医療連携協議会としての活動となっています。
処方箋による調剤や一般用医薬品の販売、健康相談、漢方相談に加え、これらの活動を通じて地域の方に「安心」を提供できる薬局づくりを目指しています。
先生は薬局薬剤師の立場から評価機構の評価委員として薬学教育を評価されていますが、現在の薬学教育について思うところをお聞かせください。
6年制薬学教育になってからの薬学生に接する中で知識や技能、プレゼン力はアップしたと思いますが、「自分の人生の時間を費やして患者さんをみる覚悟があるか」「日々の業務を行いながら、臨床現場の課題や問題点を見つけて、積極的に研究に取り組む」というマインドはまだまだ醸成できていないように感じます。5年次の実務実習は指導薬剤師のもとで、患者さんや他職種と接する中で、臨床能力を身につけていくもので、一定の成果が得られているように思います。しかし行為に責任が伴わない実習であることには変わりありません。そういった状態での実習にとどまっているうちは仕事に対する責任や覚悟といったマインドは醸成できにくいでしょう。薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂が今年進められています。そのあたりについては今後の薬学教育に期待しているところです。
今の薬学教育に対して希望することはありますか。
最近では病院や薬局の臨床現場に立ちながら大学で教鞭を執る教員が増えてきました。6年制薬学教育は薬剤師養成を基盤に置いているわけですから、臨床現場で活躍されている方が学生を指導していくことが自然な流れだと思います。薬学部全体がその姿勢を持ってほしいですね。
評価機構に対して要望することはありますか。
大学の評価については多くの関係者が多くの時間を要して精査し、「評価報告書」としてまとめていますが、臨床現場の者にとってはその評価がわかりづらいのがもったいないですね。一目で大学の長所や課題点を誰が見てもわかるような報告書にしていただけると、薬学教育への理解がより一層深まるのではないかと考えます。
社会状況が激変し、医薬品や医療技術が進化する中、薬剤師を取り巻く状況は一変しました。厳しい意見を申し上げましたが、未来の薬剤師が活躍できるようにわれわれ現場の薬剤師も薬学教育とともに薬学生をサポートしていきたいと考えています。
最後に高校生へメッセージをお願いします。
道でしんどそうにされている人を見かけたら、声をかけることができる子、何かできることはないかと思える子は、ぜひ医療の道に進んでほしいですね。そのマインドが医療人として不可欠なのです。
プロフィール
日本薬剤師会副会長
渡邊 大記(わたなべ だいき)
1992年、北陸大学薬学部卒業後、国立大阪病院(現:大阪医療センター)薬剤科に入職。1996年、父親が経営するダイガク薬局に戻り、現在は3店舗の薬局を経営し、地域住民の健康をサポートしている。1999年、京南保険薬局部会(現:下京南薬剤師会)会長などを務め、現在は京都府薬剤師会副会長と日本薬剤師会副会長を兼任し、地域の薬局を牽引している。2018(平成30)年度から、評価委員ならびに評価実施員として薬学教育評価機構の第三者評価を行う。